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和歌山地方裁判所 昭和56年(行ウ)3号 判決

和歌山市黒田一二番地

原告

株式会社東洋精米機製作所

右代表者代表取締役

雑賀和男

右訴訟代理人弁護士

澤田脩

藤田正隆

和歌山市湊通り北一丁目一番地

被告

和歌山税務署長 木村富

右指定代理人

小林敬

西峰邦男

坂田暁彦

豊田誠次

城尾宏

木下昭夫

杉山幸雄

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の法人税確定申告について、昭和五五年五月二九日付で原告に対してなした申告期限延長申請却下の処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五五年五月一五日付で、被告に対し、昭和五四年度分(昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度分。以下、これに準ずる。)法人税確定申告の延期申請をしたが、被告は、昭和五五年五月二九日右申請を、却下(以下、「本件処分」という。)した。

2  原告は、同年七月二九日被告に対し、本件処分について異議申立をしたが、被告は、同年一〇月二七日右申立を棄却した。

3  原告は、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五六年七月一三日、右請求を棄却した。

右審査請求を棄却した理由の要旨は、原告は、検察庁に領置された帳簿に係る事業年度分以降の昭和四八年三月期及び昭和四九年三月期の各事業年度分の確定申告時と本件に係る事業年度分のそれとの間に、確定申告書を作成することについて特段の事情の変化は認められない、というものである。

4  しかし、右は事実に反する。すなわち、

(一) 原告は、法人税法違反の嫌疑により、昭和四七年八月三日大阪国税局から、昭和四八年四月一二日及び同月二五日和歌山地方検察庁から、計三回にわたって決算上必要な殆んどの書類を押収され、その後、その一部について仮還付を受けたが、なお大部分の書類は領置されたままで、その閲覧、騰写もままにならなかった。

そのうえ、本件確定申告に是非とも必要なノート(国税局領置番号押証第六二四―一、検察庁領置番号昭和四八年領第四一五号符第五八七の一号。以下「無題ノート」という。)は、和歌山地方検察庁に保管されている筈であり、原告は、かねてより特に無題ノートの閲覧を求めているのに抱らず、同検察庁は、その所在が明らかでないため、現在捜索中で近い将来に明らかにするとの釈明を繰り返すのみで、その有無を明らかにしなかった。

右無題ノートには、原告と財団法人雑賀技術研究所及び雑賀慶二との特許使用料等に関する取決めが記載されており、右ノートの内容は複雑、多岐にわたるもので復元は容易でなく、右ノートが閲覧しえぬ状況では、昭和四七年度分、同四八年度分の決算確定は不可能であり、したがって、その後の年度である昭和五四年度分の決算確定並びに法人税の確定申告もなしえなかった。

(二) 原告は、昭和四七・四八年度分の法人税申告につき確定申告書を提出したものではない。原告は、前記事情により決算確定ができないことを理由に、被告に対し確定申告書を期限までに提出できない旨繰返し述べたところ、被告職員から決して不利益な取扱いはしないので概算でもよいから申告するようにとの教示をうけたので、右両年度分の申告に関し、やむなく仮の申告をしたにすぎない。

5  ところで、和歌山地方検察庁は、無題ノートの所在について、前記のとおり現在捜索中で近い将来に明らかにするとの釈明を繰り返すのみであったところ、昭和五六年一二月三日原告に対し、無題ノートを紛失し、おってその旨書面で明らかにすると口頭で通告してきた。以上のような約一〇年近くにわたる同検察庁のあいまいな措置こそが、原告の本件申告の延期申請を必要ならしめた理由にほかならない。

6  一方、原告は、これに先立ち、雑賀慶二との債権債務に関し、同人との間で、取敢えず昭和四九年度分につき再協議を進め、被告も、雑賀慶二の同年度分の所得税額の異議申立に対する決定において、右再協議の結果を確認するとともにこれを是認した。そこで、原告及び雑賀慶二は、右再協議の結果に基づいて、更に昭和五〇年度分以降についても再協議をし、その申告を可能にするべく努力していた。

ところが、被告は、雑賀慶二に対する右異議決定を覆して減額更正決定をした。しかしながら、右更正決定は明らかに違法であって、その違法であることは、被告担当者が自認しているところである。

このような、被告の矛盾した措置こそが、原告の本件申告を不可能ならしめているものである。

7  以上のように、原告は、昭和四七・四八年度分法人税について、被告職員の教示に従ってやむなく仮の申告をしたにすぎないところ、被告がした本件処分は、(一)前記4のとおり、誤ってこれらを確定申告と認定し、右誤った認定を前定にしてなされたものであり、また、(二)前記5、6のとおり、和歌山地方検察庁及び被告の不当な措置こそが、原告の本件申告を不可能ならしめていることを看過してなされたものであるから、この点で本件処分には違法がある。

よって、原告は被告に対し、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。但し、国税不服審判所長が審査請求を棄却したのは、昭和五六年七月二二日である。

2  同4及び5は争う。

3  同6のうち、被告が雑賀慶二の昭和四九年分所得税の決定(昭和五五年三月一五日付)に対する異議決定(同年七月三日付)を更に減額更正(同年一一月一四日付)したことは認めるが、その余は争う。

4  同7は争う。

三  被告の主張

1  原告は、昭和五四年度分の確定申告期限の延長を求めるものであるところ、原告の帳簿書類を大阪国税局が押収したのは昭和四七年八月三日であり、和歌山地方検察庁が押収したのは昭和四八年四月一二日及び同月二五日である。したがって、本件延長申請に係る昭和五四年度分の各取引に係る帳簿書類は一切押収の対象とされていない。また、右大阪国税局の書類押収の際、昭和四七年度分の元帳等基本的な会計帳簿については、当初から原告に保管させる措置がとられていて、原告においてこれを見ることはもちろん、継続記帳することも可能であったうえ、押収された帳簿等で決算に必要なものについては、国税局及び検察庁ともに原告に閲覧させるよう配慮が施されていたのであるから、昭和五四年度分の確定申告に、何ら支障はない。

2  原告は、昭和四八年一〇月一日及び昭和四九年五月三一日に、それぞれ昭和四七年度分及び昭和四八年度分の法人税確定申告書を被告に提出し、右各申告書には各事業年度に係る貸借対照表及び損益計算書を、特に昭和四八年度分については各勘定科目内訳書をも添付している。このように、昭和四七・四八年度分について有効な確定申告をしているのであるから、その後特段の事情の変化も認められない昭和五四年度について確定申告ができない理由はない。

3  無題ノートには、もともと原告が主張するような原告と雑賀慶二及び財団法人雑賀技術研究所との特許使用料等の取決めに関する事項の記載は全くなかった。仮にそのような記載があったとしても、それは単なる右当事者間の予備的な協議の合意事項に関するものにすぎず、いまだ正式な契約ではないから、当事者を拘束するような何らの効力も発生していないものである。しかもその記載されていたという協議の結果は、協議の相手方も当然了知しているものであるから、原告が相手方に対しその記載内容の確認を求めることは決して困難なことではないし、それに代えて当事者間での再協議の方法も可能である。特に右協議の相手方当事者である雑賀慶二は、同じく協議当事者である財団法人雑賀技術研究所の理事長であるうえ、右雑賀慶二は、原告会社代表取締役雑賀和男の弟であり、しかも、協定当事者間の取引は、現在まで円滑に行われているのであるから、右のような措置を講ずることは極めて容易なことである。

4  仮に、無題ノートに記載されていたという内容が確定しえないのであれば、当事者間で暫定的な取決めをして決算するか、再協議して改めて取決めをして決算するか、確定しえない部分を除外して決算するか、或いは、相当の見積額で決算し、後日金額が確定した事業年度において修正決算するなりして決算すべきである。

以上のとおり、無題ノートの存否にかかわらず、原告は、確定申告ができるし、また、確定申告をすべきものであるから、無題ノートに関する検察庁の対応がどのようなものかということは、本件と何らの関連がない。

5  更に、商法においては、会社は決算期ごとに決算をして貸借対照表及び損益計算書等の財務諸表を作成し、右財務諸表は毎年一回以上開催される定時株主総会において承認を求むべきこととされているにも抱らず、無題ノートの内容を確認しえないことの一事をもって、昭和四七年度分以降の全事業年度の決算が全くできないとする原告の主張は失当というほかない。

6  原告は、被告が、雑賀慶二の昭和四九年分所得税の決定に対する異議決定を更に減額更正したことは矛盾した措置であり、このような矛盾した措置が本件申告を不可能ならしめると主張する。

しかしながら、被告の右各処分は、むしろ雑賀慶二が、昭和四九年分所得税の確定申告書を申告期限後五年近く経ても提出せず、その調査に関する被告の質問検査に対して、本件申告期限の延長請求における理由と同様の理由を挙げて全く応じなかったことに起因するものというべきである。

また、原告主張の事情は、原告が本訴において延長を求める昭和五四年度分の法人税確定申告期限(昭和五五年五月三一日)後に発生しているものであるうえ、右事情は、雑賀慶二個人に関するものであり、更に矛盾した状態がそれほど長期間持続したものでもないのである。

結局、仮に原告の主張するごとく、被告の右各処分に矛盾があったとしても、本件とは全く関係なく、原告の主張は失当である。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第八号証(但し、第八号証は写。)

2  乙号各証の成立(第三ないし第六号証については原本の存在も)を認める。

二  被告

1  乙第一ないし第一八号証(但し、第三ないし第六号証は写。)

2  甲第五号証の二の成立は知らない。その余の甲号各証の成立(第八号証については原本の存在も)を認める。

理由

一  本件処分等の概要

原告は、昭和五五年五月一五日付で、被告に対し、昭和五四年度分法人税確定申告の延期申請をしたが、被告は、昭和五五年五月二九日本件処分をしたこと、原告は、同年七月二九日、被告に対し、本件処分について異議申立をしたが、被告は、同年一〇月二七日右申立を棄却したこと、原告は、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、請求原因第3項記載の理由で、右請求を棄却したことは当事者間に争いがない。

二  原本の存在及び成立に争いのない乙第三ないし第六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、法人税法違反の嫌疑で、昭和四七年八月三日より昭和四八年四月二五日までの間、三回にわたって、大阪国税局及び和歌山地方検察庁より、原告主張の無題ノートを含め、多数の帳簿類等を押収されたこと、右無題ノートは和歌山地方検察庁において保管中、所在が分らなくなり、その後、同検察庁は、捜索の結果本件処分(昭和五五年五月二九日)の後である昭和五六年一二月三日原告に対し、無題ノートを紛失した旨口頭で通告したことが認められる。

三  原告は、右無題ノートには、原告と財団法人雑賀技術研究所及び雑賀慶二との継続的な特許料支払等に関する取決めが記載されており、右ノートを資料としない限り、昭和四七年度分、同四八年度分の決算確定は不可能であり、したがって、その後続年度である昭和五四年度分の決算確定並びに法人税の確定申告も不可能である旨主張する。

しかし、前掲乙第五号証、成立に争いのない乙第一、二号証によれば、原告は、その後、昭和四七年度分、同四八年度分について、いずれも還付をうけた帳簿類及び押収後新しく作成した帳簿、伝票類等を参照して、でき得る限りの範囲内で損益計算をして決算をしたうえ、これに基づいて、昭和四七年度分については昭和四八年一〇月一日「仮申告書」と題する書面を、昭和四八年度分については昭和四九年五月三一日「確定申告書」と題する書面を、それぞれ被告宛提出していること、右「仮申告書」及び「確定申告書」は、いずれも法人税法施行規則別表に定める書式を用い、昭和四七年度分の申告書につき、その表題部「申告書」と印刷された個所の前の空白部分に「仮」と記載されているほかは、両書面とも同規則に定める記載要領に従い、法人税の確定申告として必要な事項の全てが記載されてあり、その内容は修正申告書、或いは中間申告書とはみられないものであって、所得金額又は欠損金額、本申告により納付すべき法人税額、還付をうけようとする銀行名等の記載もあり、添付された損益計算書には各項目ごとの損益金の額が記載され(昭和四八年度分については支払特許料も記載され)、同じく添付の貸借対照表には期末における資産、負債の内訳、すなわち預貯金、受取手形、未収売掛金、仮払金、貸付金、たな卸資産、有価証券、預り保証金、借受金等個々の明細と額が記載されていること、右昭和四七年度、同四八年度の各決算及び申告は、いずれも無題ノートを資料とすることなく、なされたものであること、原告は、前記差押後も営業を継続し、右営業につき伝票、帳簿、書類を作成し、保管していること、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

四  右認定の事実からすれば、原告について、やむを得ない事由により昭和五四年度の決算が確定しえないものと認めることはできない。

すなわち、無題ノートの差押後昭和五四年度分確定申告書提出期限までに既に八年近くが経過し、この間原告において各年度の営業につき新たに伝票、帳簿、書類等を作成してきているのであるから、原告としては、無題ノートの行方如何に抱らず、これらの資料によって昭和五四年度分の決算をなし、申告をなすことは当然の義務であり、また可能でもあるというべきである。昭和五四年度分の決算のため、従前の資産状況等を必要とするとしても、前期認定のとおり昭和四七年度分、特に昭和四八年度分については支払特許料をも含め詳細に個々の項目と額をあげて決算がなされているのであるから、これを基礎として昭和五四年度分の決算をすることができた筈であり、後日申告額が真実の所得額より過大であることが判明した場合には、その更正を請求することができ(本件のように書類の押収があった場合には、更正の請求期間につき特別の定めがなされている。国税通則法二三条一項、二項三号、同法施行令六条一項三号)、また逆に申告額が実際の所得額より低かったとしても、申告に際し、国税通則法六五条二項所定の正当な理由があると認められる限り、過少申告加算税を課せられることはなく、また事実の隠ぺい等同法六八条一、二項所定の事実がない限り、重加算税を課せられることはないのである。したがって、前記の方法により昭和五四年度分につき申告をしたとしても、原告にとって不利になることはないというべきである。

五  原告は、本件処分の違法事由として請求原因第5項記載のとおり、無題ノートに関する和歌山地方検察庁の措置の不当性を主張するが、無題ノートの行方如何に抱らず、昭和五四年度分の決算並びに確定申告をなすべきものであることは前記四に説示のとおりであるから、右主張は採用できない。

更に、原告は、請求原因第6項記載のとおり、被告が、雑賀慶二の昭和四九年分所得税の決定に対する異議決定を更に減額更正したこと(この事実は当事者間に争いがない。)について、その措置の矛盾、不当性を主張する。しかしながら、被告の右各処分は原告以外の第三者に対してなされたものである以上、これをもって本件処分の違法事由とすることができないことは、その主張自体から明らかであり、また、本件処分の適否は、処分の時点で判断すべきものであるから、本件処分後の事情である原告の右主張事実(成立に争いのない甲第六号証によれば、被告が、雑賀慶二に対し異議決定をしたのは、本件処分の後である昭和五五年七月三日と認められる。)を考慮すべきものでもない。

六  結論

よって、被告の本件処分は適法であり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鐘尾彰文 裁判官 高橋水枝 裁判官 岩田眞)

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